歯牙移植(しがいしょく)

ご自身の歯を“第二のチャンス”として活かす治療法

歯を失ったときのもう一つの選択肢

むし歯や歯周病、外傷などにより歯を失った際、通常の治療法としては「ブリッジ」や「入れ歯」、「インプラント」が選択肢として挙げられます。しかし、患者様ご自身の歯を使って欠損部位を補う“歯牙移植”という方法があることをご存じでしょうか?

歯牙移植とは、主に親知らずなどの不要な歯を、歯を失った場所に移植する外科処置です。生体にとって“異物”であるインプラントとは異なり、ご自身の天然歯であることから生体とのなじみが非常によく、条件が整えば非常に有効な治療法といえます。

歯牙移植の特徴とメリット

  • ご自身の歯を活用できる生体親和性の高い治療
  • 歯根膜が移植されることで、再び骨と結合しやすい
  • 咬む力に対する適応性が高く、感覚も自然
  • インプラントと違い、骨の成長が続く若年者にも適応可能
  • 将来的に矯正治療やブリッジの土台としても利用できる
  • 条件が良ければ、保険適用になるケースもある

特に親知らずが真っすぐに生えていて健康な場合、抜歯するだけではもったいないような歯を移植歯として活かすことができます。

歯牙移植の流れ

1. 精密検査と診断

移植する歯と、受け入れ先となる部位の状態を、レントゲンや歯科用CTで確認します。骨の量や歯の大きさ、形態、咬み合わせなどを総合的に判断します。

2. 抜歯・移植処置

健康な移植歯(多くは親知らず)を丁寧に抜歯し、歯根膜をできるだけ損傷させないように移植部位へ移します。その後、固定処置を行い、歯が安定するまで数週間待機します。

3. 定着の確認・根管治療

移植歯が骨と結合して安定したことを確認した後、必要に応じて根管治療(神経の処置)を行います。これは感染を防ぎ、長く歯を保つための重要なステップです。

4. 被せ物の装着

最終的に補綴処置(被せ物やクラウンなど)を行い、見た目と機能の両立を図ります。

適応となる条件

歯牙移植はすべてのケースに適用できるわけではありません。以下のような条件を満たす必要があります。

  • 健康で十分な歯根を持つ親知らずなどの「ドナー歯」がある
  • 移植する部位に感染や骨吸収が少ない
  • 患者様の年齢・健康状態が手術に適している(一般的には40代までが成功率高)
  • 移植歯と欠損部のサイズが合っている
  • 術後の清掃状態・管理意欲が高いこと

これらを満たしていれば、インプラントに代わる自然な治療法として非常に有力です。

歯牙移植とインプラントの違い

比較項目 歯牙移植 インプラント
使用する素材 自分の歯(親知らずなど) チタン製の人工歯根
生体との親和性 非常に高い(歯根膜あり) 高いが人工物
治療費 保険適用となる場合あり(条件あり) 原則自費診療
若年者への適応 成長期にも適応可能 骨の成長が止まるまで適応外
治療後の感覚 より自然な咬合感・咀嚼感覚 感覚は少ない(骨と直接結合するため)

歯牙移植の成功と予後管理

移植の成功は、処置中の丁寧さはもちろんですが、術後の管理とメンテナンスによって大きく左右されます。

  • 正しいブラッシング
  • 定期的な歯科検診
  • 噛み合わせの調整
  • 必要に応じた根管治療や補綴処置の精度

などを適切に行うことで、10年以上にわたって機能する移植歯も珍しくありません。

「自分の歯で治す」選択を

歯を失ったとき、多くの方が「インプラントかブリッジか」で迷われますが、条件が合えば“自分の歯を再利用する”という選択肢もあることを、ぜひ知っていただきたいと思います。

親知らずや使われていない歯を活かして、生体本来の力を引き出す治療
それが、歯牙移植の魅力です。

まずはご相談を

歯牙移植は専門的な診断と技術を必要とする治療ですが、条件が合えば歯を失った方にとって非常に価値のある選択肢です。
親知らずが残っている方、できるだけ自然な方法で歯を取り戻したい方は、お気軽にご相談ください。
あなた自身の歯を使って、新たな歯の未来をつくるお手伝いをいたします。