「寝ている間の力」が歯を壊す
就寝中に無意識に行われる歯ぎしり(ブラキシズム)や食いしばり(クレンチング)は、見過ごされがちですが、歯・顎・筋肉・神経・全身の健康にまで大きな影響を与えます。歯がすり減る・詰め物が外れる・顎が痛む・肩こりや頭痛が慢性化するなど、一見関係なさそうな不調の根源が「夜間の噛みしめ」にあることも珍しくありません。
歯ぎしり・食いしばりとは?
睡眠時に無意識に歯をこすり合わせたり、強く噛みしめている状態のことを言います。種類は主に3つに分類されます。
分類 | 内容 | 特徴 |
---|---|---|
グラインディング | ギリギリと歯を擦り合わせる | 歯がすり減る、音が出やすい |
クレンチング | 強く噛みしめる | 音は出ないが、筋肉疲労・詰め物脱離など |
タッピング | カチカチと歯を小刻みに打ち合わせる | 稀なタイプ、神経症状と関係することも |
歯ぎしり・食いしばりによって起きる問題
- 歯の摩耗・咬耗(すり減り)
- 詰め物・被せ物の破損・脱離
- 知覚過敏・歯根破折
- 顎関節症(カクカク音・痛み・開口障害)
- 慢性的な頭痛・肩こり・首の痛み
- 睡眠の質の低下・全身疲労
特に歯根破折は抜歯が必要になるケースもあり、最悪の場合インプラントやブリッジが必要になることもあります。
原因と関与因子
歯ぎしり・食いしばりの明確な原因はまだ解明されていない部分もありますが、以下のような要因が複合的に関与しているとされています。
- 精神的ストレス・緊張・不安
- 噛み合わせ(咬合)の不調和
- 睡眠障害・閉塞性睡眠時無呼吸症候群
- 日中の癖(姿勢、ガムの噛みすぎなど)
- アルコール・喫煙・カフェインの摂取
ボツリヌス治療とは
歯科領域におけるボツリヌス治療とは、主に「食いしばり」「歯ぎしり」「顎関節症」などの筋肉由来の症状を緩和するために、ボツリヌストキシン製剤(通称ボトックス)を使用する治療法です。美容医療で知られるこの製剤は、筋肉の過剰な緊張を緩和する作用を持ち、歯科領域では機能回復や痛みの軽減を目的として使用されます。筋肉由来の咬合トラブルや顎関節の不調に対し、ボツリヌス治療は非常に有効な補助療法です。薬物による緩和と歯科的な咬合管理を組み合わせることで、従来の治療法では得られなかった効果が期待できます。症状にお悩みの方は、お気軽に当院までご相談ください。
ナイトガード治療とは?
ナイトガード(スプリント)は、寝るときに装着するマウスピース型装置で、歯ぎしりや食いしばりのダメージを軽減する保護装置です。
噛む力(最大約100kg以上)が直接歯に伝わるのを防ぎ、筋肉の緊張も緩和されるため、顎関節や筋肉への負担も軽減されます。
ナイトガードの種類と比較
タイプ | 素材 | 特徴 | 主な適応 |
---|---|---|---|
ハードタイプ | 硬質レジン | 耐久性に優れ、咬合安定が得られる | 食いしばりが強い方、咬合調整が必要な方 |
ソフトタイプ | 軟性樹脂 | 装着感が柔らかく、適応しやすい | 初めての方、軽度の歯ぎしり |
保険適用の条件と費用の目安
ナイトガードは「顎関節症」または「咬合関連症状(歯の咬耗など)」が認められた場合、保険適用となります。
費用目安(保険診療・3割負担)
- 型取り・装着まで:¥4,000〜¥6,000前後
- 調整費用:再診料のみ(¥500〜¥800程度)
※自由診療でのカスタム製作(厚み指定・カラーなど)は ¥16,500〜となります。
治療の流れと通院回数
- 初診カウンセリング:症状・生活習慣・噛み合わせを診査
- 歯型採得:シリコン印象材で精密な型取り
- 技工製作:院内または専門技工所にて製作(約1週間)
- 装着・調整:適合・咬合確認のうえで装着
- 定期メンテナンス:1〜3ヶ月に1回程度の点検を推奨
生活習慣へのアプローチも大切
ナイトガードだけでは根本的な歯ぎしり・食いしばりは止められません。以下の生活指導も並行して行います。
- 日中の歯の接触癖(TCH)の意識改善
- 睡眠前のリラクゼーション(入浴・ストレッチ)
- 姿勢の改善・枕の高さの調整
- カフェイン・アルコールの摂取制限
- ストレスコントロール・カウンセリング併用
よくあるご質問(FAQ)
歯を守るだけでなく、全身の健康にもつながるケア
ナイトガードは「単なるマウスピース」ではなく、自分では止められない「夜間の力」から歯・顎・身体を守るための重要な装置です。歯ぎしり・食いしばりは自覚しづらいため、歯のすり減り・詰め物がよく外れる・顎が疲れるなどが気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。