治療だけでは健康は守れません

歯科医院でのプロフェッショナルケア(PMTCや治療)は、健康な口腔環境を保つ上で重要です。
しかし、それだけでは十分とは言えません。実際には、日々のセルフケア=ご自身で行うホームケアが、歯の寿命を大きく左右します。

このページでは、科学的根拠に基づいたホームケア方法を、年齢・生活環境・リスクに応じてわかりやすくご紹介します。

セルフケアの重要性とエビデンス

スウェーデンの著名な歯周病学者アクセルソン博士の研究によれば、正しいブラッシングと定期検診を組み合わせることで、80歳でも20本以上の歯を維持できる確率が大幅に高まると報告されています。

また、日本歯科保存学会では、毎日の適切な清掃習慣が虫歯と歯周病の最大の予防因子であると明言しています。

  • 歯ブラシによるプラーク除去率:58〜70%
  • 歯間ブラシ・フロス併用による除去率:80%以上に向上

正しいブラッシング法 ~ 「時間」よりも「質」が重要

毎日歯を磨いていても、虫歯や歯周病が進行する方が多くいらっしゃいます。その大きな理由は、「磨いている」と「磨けている」は違うからです。

■ バス法(歯周病予防向け)

  • 歯と歯茎の境目に斜め45度でブラシを当てる
  • 軽く小刻みに振動させるように1本ずつ

■ スクラビング法(子どもや高齢者向け)

  • 毛先を歯面に直角に当て、小刻みに動かす
  • 力を入れすぎない(毛先が広がると効果が激減)

※ブラッシング時間の目安は、1日2回・各3〜5分程度。就寝前のブラッシングが最も重要です。

デンタルフロス・歯間ブラシの選び方と使い方

歯ブラシだけでは届かない「歯と歯の間のプラーク」を除去するために、フロスや歯間ブラシの併用が不可欠です。

■ デンタルフロス

  • 糸巻きタイプ(指で操作するタイプ):コントロールがしやすい
  • ホルダータイプ(U字型・Y字型):初心者や奥歯に使いやすい

■ 歯間ブラシ

  • SSS〜LLまで、歯間の広さに合ったサイズを選ぶ
  • 無理に挿入せず、抵抗感があればサイズ変更を

使用頻度は1日1回が推奨されています。
フロスは全ての方に、歯間ブラシは歯周病治療中や歯列に隙間がある方に特に有効です。

マウスウォッシュ・歯磨剤・ジェルの正しい選び方

■ 歯磨剤(歯みがき粉)

  • フッ素(950〜1450ppm)配合のものが推奨
  • 知覚過敏がある方は硝酸カリウム配合品を
  • 研磨剤無配合の「ジェルタイプ」は電動歯ブラシ向き

■ マウスウォッシュ

  • 殺菌力を重視:クロルヘキシジン系(短期使用)
  • 毎日使うならアルコールフリーの低刺激タイプ
  • すすいだ後は「水で再うがいしない」が基本

■ フッ素ジェル・MIペースト

  • う蝕リスクが高い方は、寝る前にフッ素ジェルを
  • MIペーストはカルシウム・リン酸供給に有効(乳製品アレルギー注意)

食習慣と口腔環境の関係

食生活は歯の健康に直接的な影響を与えます。

  • 頻回な間食(とくに砂糖)はむし歯の最大リスク
  • 酸っぱいもの(炭酸・酢・柑橘類)は酸蝕症の原因
  • 唾液は天然の再石灰化因子 → よく噛んで唾液を促すことが重要

「〇〇は絶対NG」ではなく、食べ方・タイミング・口腔内のpH管理がカギです。

生活習慣と口腔の健康 ~ 見落とされがちな要因

  • 喫煙:歯周病リスクを3〜6倍に増加
  • 口呼吸:乾燥により虫歯・歯肉炎・いびき・舌位異常へ
  • 睡眠不足:免疫力の低下により口内炎・口臭の増加

これらの生活習慣もセルフケアの一部と考え、必要があれば生活指導・耳鼻科との連携も行います。

年齢・状況別のホームケアアドバイス

■ 小児(乳歯・仕上げ磨き)

  • フッ素入り歯みがきは生後6ヶ月からOK(使用量に注意)
  • 仕上げ磨きは12歳前後までサポートを

■ 矯正治療中

  • マウスピース矯正中:アライナー内の清掃を徹底
  • ワイヤー矯正中:歯間ブラシ・タフトブラシの併用必須

■ 高齢者

  • 歯の清掃だけでなく舌・粘膜・入れ歯の清掃も
  • 誤嚥性肺炎予防には口腔ケアと嚥下リハビリが重要

よくあるご質問(FAQ)

Q. 歯ブラシはどのくらいで交換すべきですか?
A. 毛先が広がったら交換が目安です。通常1ヶ月に1本程度が推奨です。
Q. フロスと歯間ブラシはどちらが良いですか?
A. 歯間の広さや歯並びにより異なります。当院での指導時に最適なものをご案内しています。
Q. 食後すぐ磨くのはよくないと聞いたのですが?
A. 酸性食品の後は唾液でpHが戻るまで30分待つのが理想ですが、すぐ磨く場合は力を入れすぎず優しく行ってください。

「治療」より「予防」の時代へ

現代の歯科医療は、痛くなってから通うのではなく、「悪くならないように日常から整える」予防重視の時代へと大きく変化しています。

その鍵を握るのが、毎日のセルフケアです。
当院では、定期検診と併せて、患者さま一人ひとりに合ったホームケアを継続的にご提案してまいります。

ご自身のお口に合った正しいケアを身につけ、一生自分の歯で食べる幸せをともに目指しましょう。

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